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『鶫はね、ほとんど鳴かない鳥なんだ。だから〝ツグミ〟っていうんだよ』
ある時、林道で見かけた小さな鳥を遠巻きに眺めながら、ハルカさんが言った。
小学校2年生の秋、国語の授業で〝私の名前の由来〟というテーマの作文を書くよう、宿題が出された日だった。
母に聞いたところで、名前の由来なんてないかもしれないし、忙しさにかまけて教えてくれるかどうかもわからない。
だから何を書いたらいいかわからないのだと私がこぼすと、ハルカさんが散歩でもしようと言って、秋晴れの林道に連れ出してくれたのだった。
『私がうまく喋れないのは、ツグミって名前だからなのかな』
地面をつついている鳥を見つめて、何気なく呟いた。
言ってしまってから気まずくなって、ジャンパーのポケットの中で両手を握ったり閉じたりしていると、ハルカさんは私の目線に合わせて腰をかがめたまま、優しい笑顔で『見ててごらん』と小鳥を指差した。
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