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ももくんは一息つくと、
「送ってく」
と言って歩き出した。
「どうだった? 卒展。楽しめたかな?」
「うん。美術のことはわかんないけど、面白かったよ」
「そっか、よかった」
「なんていうかな、みんな、やりたいことがあって、すごいなって思った」
「え?」
「私はやりたいこととかなんにもないから。ももくんは、どうして美大で彫刻の勉強したの?」
「どうしてって……」
「ももくんは、私とほぼ同じところで生まれ育ってるのにさ、どうしてそんなちゃんとした目標があるの? 私なんにも見つけられなかったよ」
「はははは」
ももくんが急に笑いだして、ぎょっとした。
「え? なに?」
「いや、そりゃ、ゆかちゃんはわからないよね」
「どういうこと?」
「僕が彫刻を勉強した理由? そんなの彫刻にしてみたい横顔が、近くにあったから。それだけだよ。本人はそりゃ、横顔見る機会ないよね。ははは」
「え……それって、その……」
「うん、ゆかちゃんの顔が好き」
私は不覚にもどきりとした。顔のみだとしても、「好き」って言われると、なんだかどきどきする。
「それじゃ、私の顔を形にするためだけにももくんは美大に行ったの!?」
「そうだよ。どうかしてるだろ」
「うん、どうかしてる」
「やりたいことやってるやつなんて、傍から見たらどうかしてるよ。ゆかちゃんは、賢明なんだよね。よくも悪くも、冷静なんだよ。やりたいことをやる前に『それやって何になるんだ?』って考えてるんだと思う」
「賢明? 私が? そんなこと初めて言われたよ。みんな「顔はいいのにね」って、顔しか褒めてくれないし」
「それはゆかちゃんがちっともお洒落とかしないからでしょ。『もったいない』って言われてるだけで、顔以外いいとこなしってことじゃないと思うよ」
「そう……なのかなあ」
「まあ、僕としてはそのままでいてくれたほうがいいけどね」
「なんで?」
「さっきの先生みたいなのが山のように寄ってきて、僕の身がもたないじゃん」
「え……」
私、遠回しに告白されてない?
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