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01.ダック侯爵家の姉妹
「まぁ!オディールは愛らしくて可愛いわね」
「本当にお人形のように美しいわ」
豊かに煌めく金髪に、透き通るように白い肌。零れんばかりに大きな青い瞳を輝かせて微笑む少女――美しき侯爵令嬢オディール・ダックへの賛辞。別にそれは問題ではなかった。美しいものを美しいと思う感性を否定する気はない。だが、オディールへの賛辞には決まって次のような言葉が続くのだ。
「姉のシルヴィアとは大違い。あんな娘と同じ腹から産まれたとは思えないくらい可愛らしい」
「おいおい。比べるなんてオディールに失礼だろう」
「違いない!こんなに似ていない姉妹がいるなんて私は初めて見たよ」
そう。姉である私、シルヴィア・ダックへの罵倒で締めくくられるのである。
私とオディールは同じ父と同じ母を持つ同母の姉妹。しかし、彼らが言うように私達は欠片も似ていなかった。
私の髪は銀髪というには烏滸がましい、少し艶のあるだけの灰色の髪に暗い青色の瞳。それは父親の侯爵と同じ色だった。肌の色も特別白くもないし、顔立ちも醜くはないけれど、周囲の気を引けるほど可愛くはない。
産まれてすぐの記憶は無いけれど、使用人達の話を聞く限り、周囲も普通だったように思う。普通に両親の愛情を受けることができていたらしい。しかし私が二歳になった時に産まれた美しい妹によって、私の人生は一転した。
母はオディールを妊娠中、ずっと悪阻に苦しんでいたのだとか。死産も危ぶまれた末に産まれたオディールは幼い頃から体が弱かった。母はすぐに熱を出すオディールに掛かりきりとなり、父も心配して寝ずの番までするほどだった。使用人達も何くれとなくオディールの世話を焼き、主人夫婦と共に一喜一憂する毎日。
そうして彼女は両親や他の人々の愛情を目一杯受けて育てられた。オディールは、彼女が少し笑っただけで、鈴が転がすような声で一言何かを話しただけで、たちまち皆が笑顔になるような、そんな特異な少女だったように思う。
家族仲が良く、使用人達の結束の強いダック侯爵家――しかし、その中に私はいなかった。
何かと後回しにされている内に、相手にされないことが当たり前になってしまった私の感情の反射神経は悪く、可愛げの無い子供に成長してしまったのだ。話し相手がいないせいか、話し出すのも遅かった為、頭に問題があるように思われていたのも手伝って、ますます両親は私から離れていったのだった。
物心つく年頃になると、他家の令嬢と同じように家庭教師が付けられた。外聞を気にしてのことだろう。ようやく話し相手が出来たことが嬉しくて、家庭教師の気を引きたくて勉強に励んだのも良い思い出だ。本をたくさん読み、知識を蓄え、美しい文字を書くことが出来れば褒められるのだ。これほど嬉しいことはなかった。
だって容姿も声の美しさも、愛嬌も妹には劣る私は、それまでずっと誰の気を引くことも出来なかったのだ。妹しか見えていない両親さえも、良い成績を修めれば一瞬だけは私を見てくれることに気づき、私は一層勉学に励んだのだった。
オディールも私よりも二年遅れて家庭教師が付いたけれど、だからといって何か変わることはない。オディールがどのような成績だったとしても、彼女は両親から愛されていることには変わりないのだ。比較したところで無意味だし、むしろ同じ舞台に立ったとして、私が彼女を上回るようなことがあれば、両親にとって私は不快なもの以外の何物にもならなくなってしまう方が恐ろしかった。
美しく誰からも愛される妹とおまけのような姉――それが私達、ダック侯爵家の姉妹だった。
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