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『ま、そんなことはいいや。でも、ほんと、久しぶりだね』
そんな風に高橋さんが屈託なく話してくれることが、嬉しかった。正直、俺は彼女とそれほど話をした記憶がない。クラスは同じでも接点が全然なかったのだ。
「ああ。高橋さんは、今アメリカにいるの?」
俺の記憶では、確か彼女は東京の音大に進んだはず。思えば彼女はいつも放課後に音楽室でピアノを弾いていた。音楽科がない普通高校から音大に進学するのは、かなり大変だったらしい。
あ……
彼女の「旅立ちの日に」を聴いたときに感じた懐かしさの正体に、俺は思い当たる。高校の卒業式で「旅立ちの日に」のピアノ伴奏をしたのが、まさに彼女だったのだ。
『うん。音大で私、クラシックよりジャズの方に興味が向いてね。それで、卒業後にニューヨークに音楽留学したの。で、ようやく卒業して、ジャズピアニストとして活動を始めたばかり。まだ全然食べていけないからアルバイトとかもしてるけど、最近ブルーノートからデビューが決まったの』
「ええっ! マジで! すげぇじゃん!」
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