「卒業」からの卒業

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 別のプロデューサーからはこんなことも言われた。「歌詞に魅力がない」と。そもそも「Affordance」――俺の三枚目のシングルのタイトル――や「6 Degrees of Separation」――同五枚目のシングルのタイトル――なんて誰も知らない、と。  この指摘にはさすがに俺も異を唱えた。だって、「シンクロニシティ」や「クロノスタシス」なんて心理学用語が登場する楽曲があるのに、同じ認知心理学用語である「アフォーダンス」はなぜダメなのか。「カオスの淵」が登場する楽曲があるのに、なんで同じ複雑系の用語である「六次の隔たり」はダメなのか。他と同じようなことをしてても差別化できないではないか。  だが、これについても「そんなことは求められていない」と一蹴されてしまった。あたりさわりのないタイトルを付けて、歌詞には定番のフレーズを適当にぶち込んでおけばいいのだ、と。「桜舞い散」らせておけばいいのだ、「出会えたのは奇跡」にしておけばいいのだ、「愛してる」とか「ありがとう」とか言っておけばいいのだ、と。
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