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「平気で殺人鬼が現れる村なのかしら?」
「何もない村だよ」
オレも木の幹にもたれかかって、息を整えながら天野さんに説明した。
「何も無い村だ。観光資源も、観光地も何も無い。ミカン畑だって、酢橘だって、あとうどんとかカツオ養殖も、近隣の県の真似をしているだけさ。これと言った特色のない村だよ」
「ふむ」
オレにバニバニ様について聞いてきた時は、心なしか輝いていた天野さんの目が、少しずつ曇っていくのがわかった。
「何も無い村ね。確かに、他の県とか村と突出した点が無いのは気になっていたけど…」
「それで、あんたがさっき聞いてきた、『バニバニ様』についてだ」
「うん!」
身を乗り出し、興味津々に聞いてくる。
オレはその期待をなるべく優しく壊すように言った。
「その話、何処で聞いたんだ?」
「何処って、この村に入る道路があるでしょ?」
「うん」
「端に、小さな看板があって、『黒河村 不老不死の神 バニバニ様』っていう新聞記事の切り抜きが張ってあったのよ」
「ああ、あれかあ…」
あれか…。
「全部撤去したつもりだったのに、残っていたのか…」
「さっきからなによ」
「ごめん」
きっと、天野さんはあの張り紙を見て、「不老不死の神」に惹かれてこの村にやってきたのだろう。確かに、あの新聞記事が出た当時も多くの考古学者が、休日を利用してこの村を訪れて、観光だが調査だかわからないことをして去っていったものだ。
「あれ、嘘なんだ…」
「うそ?」
「うん。嘘」
「イタチ科の?」
「それはカワウソ」
残念そうな顔をするかと思いきや、天野さんは「ああ、いいのよ」と手をぱたぱたと振った。
「そりゃそうよね? 本当に信じているわけじゃなかったわ。昔の人って、自分たちに都合のいいことしか伝記に書かないものね。伝承なんて噓八百が当たり前…」
「いや、そういうんじゃないんだよ」
天野さんの言葉を遮るようにしてオレは言った。
「伝承とか、伝説とかじゃなくて、あれ、本当に嘘なんだ」
「だから、何が…」
「あれ、オレの親父がついた嘘なんだよ」
「え…」
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