第二ボタン

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 なぜならば、それは親友のBさんの顔だったんですよ。  ものすごく怖い顔をしたBさんが、虚ろな瞳でAさんを見下ろし、躊躇いもなく彼女の首を締めあげているんです。  さらにそのBさんは怒気を含んだ低い声で、「あなたに先輩は渡さない……先輩はわたしのもの……」と、譫言のように何度も呟いていたそうです。  その言葉を聞いて、Aさん、ようやくにして気づいたんですね。自分が好きなのを知っていたから隠していたけど、本当はBさんも先輩のことがずっと好きだったんだって。  そんなBさんの切ない気持ちを思うと、自然とAさんの目からは涙が溢れてきました。  そして、息ができずに苦しい中、Aさんは心の中で「Bちゃん、ずっと気づいてあげれなくてごめんね……」と、Bさんに謝りました。  すると、どこか淋しげにも見える表情を不意に浮かべて、Bさんはすーっ…と、暗闇に溶け込むようにして消えていったそうです。  Aさんもそのまま、また気を失うようにして眠ってしまったそうなんですが、翌朝、目を覚ましてみると、まるで憑き物でも落ちたかのように、あれほど盲目的だった先輩への恋心というものも薄れてしまっていました。  これほどたくさんの生霊に取り憑かれて、親友にまでこんな辛い思いをさせてしまうくらいなら、もうこの恋は続けていけないと。  まあ、恋心を抱いていたことは確かだったんでしょうが、それはすべてを投げ打ってでも成し遂げたい恋愛感情というよりも、年頃の女の子誰しもが抱く、カッコイイ先輩への憧れという意味合いの方が強かったのかもしれません。  そこで、Aさんは大切にしていた〝第二ボタン〟を握りしめると近所の河原へと向かい、大きな川の流れの中に思いっきりそれを放り投げました。  そうして先輩との恋の象徴であったものを処分したためか? それからというもの、Bさんや他の女子達の生霊も現れなくなり、また、あれほど頻繁にやり取りしていた電話やメールへの対応も素気なくなると、長距離恋愛だったこともあってか、先輩との関係も自然消滅してしまったそうです。  一方、あの生霊のことをBさんに告げることは一度としてなく、今でもBさんとは親友としての付き合いを続けているとのこと……。  今では懐かしい青春時代の甘酸っぱい思い出だと、笑ってAさんはこの話を聞かせてくれました。  それにしても、別にその先輩が悪いというわけではないんですが、モテすぎるというのもなんとも罪作りなものですね……。                      (第二ボタン 了)
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