第二ボタン

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 先輩もAさんに気があって、他の女子に望まれても違うボタンを代わりにあげて、第二ボタンだけはとっておいてくれたんです。  つまり、予想外にも両想いだったんですよ。  こうして、思い切って告白したことが功を奏し、めでたくAさんは憧れの先輩とお付き合いできることとなりました。  とりあえず、まずはケイタイの電話番号とメールアドレスを交換して、毎日のように何度もメールのやりとりなんかをしたり……当時はまだスマホもSNSもなく、そんなガラケーの時代だったんですね。  デートにも一、二回は行ったんですが、先輩はすぐに上京しちゃいますからね。引っ越しやら何やらで忙しかったですし、直接はあまり会う機会もないまま、東京の大学へ通う先輩とは電話やメールでやりとりするだけの遠距離恋愛となりました。  それでも、憧れの先輩との恋が実り、時折、先輩からもらった〝第二ボタン〟をニヤニヤ笑顔で眺めながら、Aさんとしてはたいへん幸せだったんですが、その一方、この頃から彼女の周りで変なことが起き始めたんです。  学校でも家にいる時でも、Aさん、自分一人になる時間ができると、誰かに見られてるような視線を感じるようになったんですね。  それも、ただ見られてるだけじゃない……強い憎しみを込めて睨まれているような感じのする、まるで刺すような鋭い視線なんです。  その視線に振り返ってみたり、辺りをきょろきょろ見回してみたりするんですが、もちろん誰もいるはずがありません。  まあ、ただの気のせいかとその都度思うようにしていたんですが、それにしてはそう感じることが頻繁にあるんですね……。  いや、そればかりか、その内、ただの気のせいとは片付けられないような、奇妙なものまで見かけるようになってきたんです。  いつもの強い視線を感じて、これまたいつものようにAさんが振り返ると、ほんの一瞬、視界の隅に誰かの影が映り込むんですね。  なぜかすぐに消えてしまい、見えるのはほんと一瞬のことなんですが、よく見慣れた紺のセーラー服を着ていて、どうやら同じ高校の女生徒みたいなんです。
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