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一か月後、新曲のレコーディングの招待が届いた。
関係者の意見を取り入れたい。特に作詞家である私の意見が欲しいとのことだった。
「彼が私を頼るというなら、行くしかないか……」
メールでも送れば済む話なのに、わざわざ手紙で知らせてくるなんて。
豪胆そうな見た目によらず彼は細やかだ。そんな一面も愛おしく、私はマンションを出る前に手紙を眺めて口元を緩める。
車でスタジオへ向かいながら、車中で彼の歌を流す。
耳は至福を覚えながら、胸奥は痛くてたまらない。
あの歌詞で彼が歌ったならば、どれだけ鈍い者でも彼の想いに気づくはずだ。
相手が誰であったとしても、今までのように気づかぬままでは済まないだろう。そうして過去の歌がすべて自分に向けられていたと自覚した時、彼に心がなびかぬ者などいるのだろうか?
彼は次の新曲でこの苦しみから抜け出せる――私はそう確信していた。
そして私が永遠に報われぬ苦しみの中で生きることが確約されることも……。
今からスタジオで、私の失恋が決定的になる。
想いが報われる未来など夢見ていないのに、この事実は私を延々と殴り続け、スタジオに着くまでに彼を祝福したい心を瀕死に追いやった。
スタジオに到着し、専用の地下駐車場へ車を停める。
……明らかに車が少ない。
時間を間違えただろうかと持ってきた手紙を確認するが、書いてある通りの時間だ。
首を傾げながらスタジオに入り、コントロールルームへと向かう。
ドアを開けた瞬間、
「相坂さん、来てくれてありがとうございます」
ぎこちなく笑う彼だけがそこにいた。
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