嘘つきは遠まわり

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 鬱陶しかった。  よく知りもしないただの同級生に話のネタにされて、あることないこと言われて、正直ウザかった。  わたしの気持ちも、桜介の気持ちも、全部無視して膨らんでいく噂。  もう、うんざりだった。 「わたし好きな人できた」  根も歯もない、嘘ばかりの噂に自分で嘘を重ねた。  ――だれ!?  塾が一緒の他校生だと答えた。  ――いつから好きなの?  気がついたら好きになってたと答えた。  ――どこが好きなの?  全部、なんて適当に答えた。  ――告白するの?  余計なお世話だわ、と思って曖昧に笑った。  もう、うんざりだった。なにもかもが。  噂が立って以来、わたしと桜介は喋りにくくなった。  桜介も噂のことを知っているのか、わたしたちの間には微妙な空気が流れていた。    そして、気まずいまま進級してわたし達はまた同じクラスになった。 「今年もよろしくな」  なんて笑った桜介に、わたしはやっぱり曖昧に笑うしかなかった。  みっちゃんが不自然だと言うくらいわたしと桜介は話さなくなったのに、噂はなかなか消えてはくれなかった。  だから、わたしは逃げるように嘘をついた。  これ以上、わたしと桜介の噂が膨らんでしまう前に。  これ以上、気まずくなってしまう前に。  わたしの気持ちが、恋バナをしたいだけの女子の餌になってしまう前に。  ついた嘘は広まる前に、他クラスで誕生した新しいカップルの話でかき消された。  次第に桜介とのことは聞かれなくなっていった。  でも、わたしと桜介の間に流れる気まずさが消えることはなかった。
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