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「あんな嘘、付かなくたってよかったのに」
みっちゃんは卒アルのクラス写真を眺めながら言った。
「……だって、ほんとのこと言ったらそれこそ女子の餌食になるじゃん」
「まぁ、そうだよね。気持ちはわからなくないわ」
「わたしだって恋バナ好きだけど、……限度があるよね」
「……同感だわ」
捲りにくいアルバムはついに最後のページに辿り着いた。
「結構書いてくれてる。全然喋ったことない子も書いてくれてるんだけど」
「よかったじゃん」
「ヒカリのどこだろ……」
黒いペンで書かれた文字を追っていく。
みんな、人によって字の形も大きさも様々で、そのアンバランスさがおもしろかった。
ーー3年間ありがとう〜!
ーー大学一緒だよね? 春からもよろしく!
クラスメイトが書いてくれたメッセージの中から、ヒカリの丸っこい字を探している時だった。
「え、……」
右ページの1番下。ページの角のところに書かれたメッセージ。
たった一文のメッセージから、わたしは目が離せなくなった。
ーー図書室で待ってる。桜介
何度も、何度も、メッセージを読み直した。
1人の男子の顔を思い浮かべて、やっとわたしは意味を理解した。
「……いっておいで」
みっちゃんの一言に、弾けるように立ち上がった。
その拍子にガタッと椅子が大きな音を立てたけど、わたしは無視して教室を飛び出した。
廊下には別れを惜しむようにおしゃべりを楽しんでいる同級生がいたけれど、わたしは人目を気にすることなく走った。
見られている気がした。
何かを言われている気がした。
でも、全然気にならなかった。
扉を開けて、渡り廊下を駆け抜けて、図書館のある校舎へと飛び込んだ。
いつからかわたしの頬は濡れていて、こぼれてくるものを必死に拭った。
階段を駆け上がって、息が上がって、苦しかった。
酸素を必死に吸い込んで、吐き出して、また吸い込んで。
自分の心臓の音が鼓膜の内側からバクバクと聞こえてくる。
体育祭で戦力外になるくらい運動音痴のわたしに全力ダッシュなんてさせるもんじゃない。
たぶん、生きてきた中で1番必死に走っている。
息が、苦しい。
自分でついた嘘は、わたしの首を絞め続けた。
そんなの自業自得だった。
でも、じゃあどうすればよかったのかなんてわからない。
うまく切り抜ける器用さも、いっそのこと告白してしまう度胸もなかった。
ただ、こんなに苦しくなるくらいなら伝えてしまった方が楽だったのかもしれないと、今なら思える。
いつだってわたしは自分を守ることで精一杯だったんだ。
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