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「彼らもいい加減、次の段階に移るべきだよ。いつまでもここにはいられない」 「しかし言うのは簡単だが、そう容易く離れられるもんじゃないんだろう。誰にだって故郷を愛する気持ちというものがある。そこが厄介なところだ」 「しかし、いつかは離れなくてはいけない。雛鳥だって成長したら自分の力で空へ飛び立っていかなければならない。いつかはそうなるんだ。彼らだって巣立ちの時が来たんだよ」 「だが、そう簡単にいくものだろうか?巣立ちと言っても、学校の卒業式のように、みんな揃って平穏無事に卒業です、とはいかないだろう。むしろ次のステップに進むことを拒否する連中だって現実にはいる」 「そこを説得するのが我々の役目さ。そのためにここに来たんだろう?」 「まぁそうなんだがな。一筋縄ではいかんよ。それで経過はどうなってるんだ?」 「もうほとんどが終了しているんだがな。残るは例の・・・」 「やはりあいつらか。ずっと移動に反対しているあの連中ときたら! 石頭ばかりで話が進まないったらありゃしない。これでは連中と最後の交渉に行ったチームも苦労しているだろうな」 「たしかにな。しかし、君が言ったように故郷から離れることに苦痛を感じる者もいる。合理的な理由じゃないのさ。その土地に住み続けるという一種の土着信仰、言わば本能がそうするのだろう」 「ふぅむ。そうは言うものの、正直私には理解できんよ。もっと住みよい場所があるなら移った方がいいに決まってる」 「もちろんそうだろうさ。現に大多数の人は移動に賛成している。 ・・・・おっとそうこうしているうちに交渉チームから連絡が来たな。」 「どうだった?結果は?」 「・・・やはりダメだったようだ。彼らは残ることにしたそうだよ」 「やっぱりそうか。我々の協力で99%の人がすでに移動しているというのに。頑固者共め」 「仕方がない。何度説得を重ねても頑として聞き入れないのだから。彼らなりに、ここに残る覚悟ができているんだろう」 「まぁ、残りたいなら好きにすればいいさ。彼らの意志ってやつを尊重してやろうじゃないか。我々の任務はあくまで移住を希望する人々をサポートすること。力づくで連れていくことじゃない」 「その通り。我々がするべきことはこの星から人々を巣立たせ、地球というシステムから卒業させること。もうすでに大多数の人間は地球から旅立っている。我々の任務もいよいよ終了だな」 「うむ。交渉チームが戻って来次第、出発しよう。これでこの星も見納めだな」  宇宙船の中で話し合っていた二人の異星人の視線の先には、環境汚染によって荒廃し、今にも崩れ落ちそうな地球の姿があった。
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