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「卒業おめでとう。遥斗」
「ああ、工藤さんもおめでとう」
ぱりっと糊の効いた制服を着た工藤さんがニコリと僕に笑いかける。
思わず見上げると薄青い空に細長い筋雲が何本も浮かんでいる。卒業式にはとてもいい天気、だと思う。校庭には早咲きの桜がこぼす白い小さな花びらが風にのって舞い散っている。
思わずため息を漏らした。
今日でこの高校も卒業だ。3年過ごした校舎は程々に懐かしく、思い出も深い。色々なことがあった、本当に。そうして僕の思い出の6割ほどは、この眼の前にいる工藤ゆかりに埋め尽くされている。
3年間ずっと同じクラスだったから。工藤さんはそれは運命だという。
そもそも工藤さんと出会ったのは中学だ。そしてその頃から僕らはクラス公認で付き合い始めた。
冷やかされることはあまりなかったけれど、なんとなく暖かく見守られているような、そんな雰囲気。
そして僕らの中学のだいたいは地元の高校に進学する。何人か、県外の進学校に進学するやつも居るけれどもそれは例外だ。だから高校に入ってもその関係はずっと続いた。
けれども高校を卒業したら後はもうバラバラだ。大部分が東京や色々の場所の大学に進学する。
だからしばらくはお別れになる。僕は進学先で就職しようと思っているから、クラスメイトと今後親しくするのはお盆や正月に規制したときくらいだろう。そう考えると、なんだか様々な感情が押し寄せてきて目の端に少し涙が溜まってきた。
そこをバンと背中が叩かれた。
「よう斎藤。この後のカラオケ行くよな!」
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