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「健吾は東京の大学にいくんだろ? 工学部だっけ」
「ああ。寂しくなるな」
「寂しい、か。それよりなんだかホッとする気分が大きい」
「そっか。お前はそうかもな。そういえば引っ越しはすぐするのか?」
「うん、もう明日には引っ越す。それで多分もう帰ってこない気がする」
「極端だな。でもまあ仕方がないか」
「そうだね。わかってくれるのは健吾だけだ」
健吾とはだいたいが同じクラスだったけれど、部活も違う。だから学校であまり話すことはない。けれども家は近所だったから、こんな風にたまにあって話をしていた。
毎日の愚痴をいったり健吾の部活の話を聞いたり、それが随分僕の気休めになっていたような、気がする。
多分健吾がいないと僕の高校生活は結構悲惨だった予感だ。健吾がいたからなんとかなった、ような。
それで僕は引っ越しの準備はほぼ完了している。
大学が決まったらすぐに寮の契約をして、それで家具なんかはだいたい備え付けのものでなんとかなるから、あとはほそぼそとした持っていくものをダンボールに詰めて発送したのが昨日だ。
だから明日新幹線で寮について、荷物を受け取ればそれで引っ越しは完了する。それで新しい生活が始まる。
今度こそ心機一転の生活を送るんだ。
「それで、バレてないよな」
「ああ。僕が行くのが東京じゃなくて名古屋の大学だってことを知ってるのは親と担任と健吾だけだ。だからバレてない、はず」
「春休み期間はどうやってごまかすんだ?」
「親戚の家に行くといってあるから多分大丈夫だと思う。二度と会いたくないけど着拒すると大変なことになりそうだから」
「ああ、工藤ゆかりはおかしい」
その名前を聞いただけで胃が逆流して頭がくらくらした。
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