花に嵐のたとえがあれど

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 その年の夏から祖母宅へは行かなくなった。もちろん、亮に合わせる顔が無いからだ。  謝りたい。だけど、謝って済むことではない。何よりも、亮の怒った顔を見るのが怖かった。  結局、三年間、亮に一言も声をかけられず卒業を迎えてしまった。卒業式の日、もうこれきり二度と会えなってしまう。どうしても、せめて一言、謝りたい。  勇気を振り絞って校門で待っていると、亮は泣きながら走ってきた。  友達や先生との別れ、中学生活が終わる寂しさ、卒業という特別な節目を迎えた感情の高ぶりで流す美しい涙なんかじゃない。  俯いていても、亮は背が高いから見えてしまったのだ。どれほどひどい思いをしたんだろう。眉を歪めきつく口を結び、見開いた目からは飛び散るほど涙が流れていた。    ごめん、亮。ごめん。  亮の卒業を、中学生活を、俺がこんな風にしてしまったんだ。  叫び出しそうになった。だけど、本当に叫びたいのは亮の方だろう。 『……亮――。ごめん』  何とか声をふり絞ることができたが、とても亮と向き合うことはできない。俺はそのまま逃げるように走り去った。  俺はもう、このままどうかなってしまいたい思いでめちゃくちゃに走った。その時、後ろから亮の声がした。 『悠人! 夏休み、また遊びに来いよ! 俺、待ってるから!』  ごめん、亮。本当に、ごめん――。ありがとう。
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