花に嵐のたとえがあれど

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 静まり返った昇降口。  あと数分後には卒業式を終えた子供たちで溢れかえり、すぐに賑やかしくなることだろう。  施錠を解き児童玄関の扉を開け放つ。  子供たちはここから出るともう、別世界の住人だ。  校庭の桜の木を見る。  ちらほら綻ぶものもあればほとんどの蕾はまだ固かった。  俺自身、今年は卒業生の受け持ちはない。裏方に回る年は当事者でない分余計なことを考えてしまう。教師になってからずっとだ。  大切だったものとの決別の瞬間を思い出すと胸が詰まる。俺はこの痛みを忘れずにいたくて、教師になったんだ。  卒業の日、ちょうどこの時だ。  あの日のこの場所に戻れたらどんなにいいだろう。  昇降口の奥から、かすかな賑わいが近づいてくる。  これからここを出ていく生徒たち。その数だけのドラマが生まれる瞬間だった。
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