花に嵐のたとえがあれど

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 昇降口を出た後は、挨拶や写真撮影で卒業生の担任教師を囲み子供も父母もしばらくの間入り乱れている。  それぞれが想い出を刻む時間。俺はそれを眺めるのが好きだ。  そんな中、声掛けこそしないが、早く帰ってほしいと言わんばかりに校門に手をかけて立っている教員もいる。  〈祝、卒業〉の立て看板の脇には記念撮影の順番待ちが列を成す。  そこにも隙きあらば片付けようと待機する教員がいた。だが彼は親切と勘違いされ、すっかりカメラマンに成り変わってるのが笑みを誘う。  さすがに卒業式の日は大目に見てもいいだろう。水を差すのは無粋だ。俺は気が済むまでここにいて欲しい。  もう二度と、戻ることはできないのだから。 「斉藤先生。俺、昇降口閉めるんで、ついでに校門も閉めておきますよ。外の倉庫にも用事があるから看板も片付けておくんで、田中先生と戻ってて下さい」 「いいんですか? じゃ、お願いします、秋月先生」  声をかけると、斉藤先生はそそくさと引き上げていった。体の大きな先生だ。きっと腹が減っているんだろう。  俺ならいつまでもこの空気を味わっていられる。むしろ、浸りたい気分だった。  
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