花に嵐のたとえがあれど

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 いよいよ校門を出る最後の一人に声をかける。  友達とではなく母親と、ゆっくり校庭を巡っていた生徒だ。 「気を付けて帰れよ」 「はーい! さよなら!」  母親が会釈をし、子供は手を振った。  後ろ姿を見送りながら思わず目が細くなってしまう。  それほどに子供の背中というものはいつでもまぶしい。  小学校の教員になってから随分経つが、いまだに新鮮だ。時折、元気に走り回る子供たちの中にあの頃の自分とアイツの姿をこっそり紛れさせてみる。  そんな光景を想像すると、楽しくて仕方ない。  子供たちや同僚からは静かで控えめだと言われているが、本当の俺は全くそんなんじゃない。  今でも根っからの子供で、できるならみんなに混ざって駆け回りたいんだ。そして、アイツと一緒の思い出を作り直せたなら、などと、詮の無いことを考え続けてるしようのない教師なんだ。  “さよならだけが人生だ”  『勧酒』という漢詩を、俺の好きな作家が翻訳した一節。  そうとも言えるし、違うとも言える。いや、どちらでもないかもしれない。  別れについてどんなに考えても、俺の答えはまだ見つかっていない。  ただ何となく、この言葉が好きだ。
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