花に嵐のたとえがあれど

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 あの日のことはよく覚えている。暑い夏の日だ。真夏の揺らぐアスファルト、坂の下から重そうな買い物袋を二つぶら下げた子供が二人、坂を上ってくるのが見えた。  祖母の住む町は山坂が多い。うろうろと歩き回っていた俺は暑さにやられていた。へとへとになりついに足を止めた場所、S字カーブになっている坂の途中にある大きな家には見覚えがある。  構えは普通の家のようだが、きちんとした門があり、学校のような表札が付いている。何かの施設なんだろうと思っていた。この家があるということは祖母の家の近くまで来ているはず。だが、どうしても祖母宅までたどり着けない。  俺は縁石に腰かけ途方に暮れていたところだった。  買い物袋を提げた子供は信号待ちで地面に袋を置き、額の汗をぬぐう。本当に重かったんだろう。両手をぶらぶらと振っていた。  二人の会話で彼らは坂の上の家の子だと知った。地元の子なら話が早い。俺はその子供――和久井(わくい)(りょう)に道を聞き、ついでに遊ぶ約束もした。  これから始まる長い夏休み、退屈したくなかったからだ。
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