花に嵐のたとえがあれど

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 断じて、自分より不幸な子供を見て得た優越感はない。誰だって自分の生まれは選べない。だけど、どんな背景があったとしても、自分次第でこうして笑っていられるんだと、あの時は心から思っていた。  亮も施設の子供たちも、みんな笑っていた。俺も家族のことなんかこれっぽっちも気にならなくなった。    五年の夏も冬も春も。六年になってからも長期の休みは亮と過ごした。亮の家の人たち――養護施設の職員や他の子供ともそこそこ仲良くなったし俺もずっと施設で暮らしたいと思ったほどだ。  職員の人には確かに気に入られていたと思う。他の子供たちとも仲良くできていたかといえば、そうとは言えない。打ち解けていた思っていたのは俺だけで実際は他の子供には煙たがられていただろう。(のち)に振り返って思った事だ。思い当たる節が多々ある。  疑問をすぐ口にする俺はどの子供にも“なぜ施設で暮らしているのか”と聞いて回っていた気がする。俺はただ、場合によっては俺もここの子供になれるんじゃないかって思っていただけだ。似たような境遇の子がいれば、俺もここに住めるのではないかと本気で思っていた。  甚だ身勝手でしかない。施設で暮らしている子供たちからすると俺はとても恵まれているのだから。今なら分かる。嫌われるはずだ。  そして、そんな俺の粗雑さが、亮の不幸を招くことになったのだ。
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