卒業していく先輩へ

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 それから数分後。スマートフォンがメールの着信を告げた。  届いたメールのタイトルは、決済完了のお知らせとなっている。  私はコンビニの外で拳を天に付き上げた。  これでもう安心だ。  後は商品発送のお知らせというメールが来て数日のうちに私の手元に届く。  応援しているアイドルの新曲コスチューム生写真一組五枚セット千円が三セット。しかも、運が良ければ写真に直筆サインが入っている可能性があるのだ。  生写真はとにかく早いものがちなのだ。特に新曲衣装は人気が高く、発売から十分後には完売なんてよくある。その日、うっかりしていて手元にお金がなく、泣く泣く諦めたところだった。  この時に小城先輩に貸した三千円の事は確かに頭をかすめたが、スルーしたのだ。人見先輩の事も同時に思い出してしまったから。  だが、決済未処理による注文キャンセル分再販売の通知が昨晩私のスマートフォンに届いた。  失ったはずのチャンスが再び目の前に現れた奇跡。  これはもう、神が掴めと言ってくれているのだ。  これを袖にするようでは、私は今後どんなチャンスにも恵まれない。  そんなふうにすら思えた。  だから、私は迷わず三セット注文し、コンビニ決済で処理をした。支払期限は今日の三時まで。  三千円を手に入れるほかに道はない。  つまり、貸した金を返してもらう事を決断したのだ、私は。  できれば穏便に。そんなふうに考えていた時期もあった。  結果として、そうはならなかったけれど。  だが、今の私にとってそれはもうどうだっていい事だ。  生写真が手に入る。それで良いのだ。  今の私にとっては推しこそが全て。それ以外の男なんてどうだっていい。  目を閉じ、私は心の中でそっと思う。  頼むから推しのサインが入っていてくれよ、と。
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