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卒業式前夜。
明日、三年生は高校卒業を迎え、次の四月には私達がその位置に収まる。
分かり切った事だけれど、つまり小城先輩はもう高校に来なくなるってこと。
「明日が……最後のチャンス……なのかなぁ」
別に二度と会えなくなるわけじゃない。
連絡先を知らないわけでもない。
「県外の大学、行くって言ってたもんね」
スマートフォンの画面を眺めながら、私は一つため息をついた。
耳にハメたイヤホンからはお気に入りのアイドルの曲が流れているけれど、いつもみたいに没入できない。
「でも……」
諦める。
そう決めたはずだ。
今の小城先輩は彼女ができたばっかりの幸せ真っただ中で、その彼女というのがまた私と同じ部活に所属する先輩。
そこに水を差すなんてのは後輩としてもっての外だ。
「卒業のはなむけ……なんちゃって」
諦めきれていない。
それは、自分でもよくわかっていた。
何かきっかけでもあればあるいは……。
不意に、手の中のスマートフォンが小さく震えた。
何かしらの通知が来たらしい。
「メール……?」
私は通知を一つタップして、それを開いた。
そして、私の目はそのメールに釘付けになった。
「え……マジで?」
慌てて私はスマートフォンの画面に指を走らせた。
人には二種類ある。
突如目の前に現れたチャンスを、掴める人と掴めない人。
私は前者でありたい。
だから決めた。
諦めるのは……やめた。
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