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「意外とあっという間だったな」
今日で学生時代が終わる。今まで大変な時期がたくさんあったはずなのに、その時どんな苦労をしてきたかなんて、当時のことをすぐには思い出せなくなっていた。昔の思い出とは案外記憶に残らないものなのかもしれない。
午前中に卒業式を無事終えた私は、所属している専攻の教室へと足を運んでいた。体育館を出て校内を歩いていると、外には見慣れた作品が展示されているのがちらほら見えた。これは彫刻専攻の生徒が卒業制作で作ったものだ。持ち帰るには大きすぎるため、学内では至る所に彫刻作品が置かれている。私の専攻は違うから、作品が外に展示されることはないだろう。
学内で開かれている卒業制作展も今日で終わる。私も自身の作品を片付けなければならない。
数が多くて大きい作品を持ち帰るのは面倒だよな。学校に預けるのはある意味楽なのだろう。そう心の中で私は愚痴を零した。
「えっと、ここだよね」
『プロダクトデザイン専攻展示室』の看板が立てられた前で足を止める。もう、この教室に入るのもこれで最後なのだ。そう考えるとなんだか無性に寂しくなってきた。私はその気持ちを頭の片隅に追いやるようにして勢いよく扉を開ける。聞き慣れた音がして、一番近くにあった作品の色が視界に入ってきた。相変わらず優秀作品賞を貰ったあの子の作品は迫力があるな、なんてぼんやり考えていたのもつかの間。
「・・・」
私は唖然とした。というより、唖然とせざるを得なかった。なぜなら、部屋に広がる光景が以前と明らかに変わっていたからだ。私の足はそこへ動かされるように、自分の作品の前まで向かっていた。
『可愛い仲間たち』
作品のタイトルが書かれたボードの文字は一部が見えなくなっている。床には赤く染まったぬいぐるみが無造作に転がっていた。そして、作品を置くはずの机の上には見覚えのない動物の死体があった。
「どうして...」
もちろん、誰かが意図的に手を加えなければこんな酷い見た目にはならない。
一体誰が?何のために?
卒業を迎えたこの日、私の作品は何者かによって汚されたのだった。
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