奴隷の少女

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奴隷の少女

 街の片隅から、風の音に混じって小さくノイズ交じりの声が聞こえてくる。それは粗末な屋台にぶら下げられているラジオから流れてくるものだった。 『心まで奪われるな!夜明けは近い!』  ソラは水汲みに行く足を止めて、ラジオから聞こえてくる女性の声に耳を澄ませた。ソラはいつもここでその声を聞いていた。  その声は力強く、人々を鼓舞する言葉が叫ばれ、屋台の近くにいる数人の大人が静かに聞いていた。声の主は奴隷解放軍の女性団長シエルのものだと、以前ここで大人たちが話しているのを聞いたことがあった。  シエルの声を聞くと、ソラの体の中では力強く熱い何かが湧き起こり、こんな自分でも何かできるのではないかという思いを強めた。さらに、何度も聞くうちに、シエルの存在がソラを支える力にもなっていた。  シエルの言葉が終わり、ソラは桶を持って駆け出した。ここで時間を潰した分を取り戻す必要があった。  両手両足に着けられた鉄の輪のせいで走りづらくはあったが、それを外すことはできない。  それは、ソラが奴隷の生まれだという証だったから。
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