智慧ある奴隷

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智慧ある奴隷

 ソラはレイに連れられて奴隷小屋に戻ってきた。あの部屋の片付けは他の奴隷がしてくれていた。  レイは何も言わずにソラの手当てを始めた。顔に包帯を巻き、体中の痣や傷にも薬を塗っていく。  ソラは手当を受けていると、涙が零れ落ちた。レイがソラの顔を見ずにたしなめた。 「泣くのはやめなさい」  それでもソラの目から涙が落ちて行く。 「どうして?私は悪いことをしたの?」  ソラはレイに聞いた。レイは手を止めないで言った。 「いい、ソラ。あなたの右目はもう何も見えない。でも、体は痛むかもしれないけど、また不自由なく動かせるようになる」  ふとレイが手を止めて、ソラの左目を見つめた。その目は哀れんでいるようにも、悲しんでいるようにも見えた。  レイが聞いた。 「智慧ある奴隷は、どんな奴隷だと思う?」  ソラは俯いて答えた。自信がないのではなく、心の奥で受け入れられなかった。 「……主人の足りない部分を助けることができる奴隷?」  レイは首を横に振った。 「智慧ある奴隷はね、智慧を持たないの」  レイはソラに分かるように、ゆっくりと説明した。 「駱駝が、自分が駱駝だということに疑問を持たないように、奴隷も自分が奴隷であることに疑問を持たない。それが奴隷の智慧よ。駱駝は、負わされた荷物が言われた物より重くても軽くても何も言わない。ただ運ぶだけ。それと同じ」 「そんなことって……」 「それが私たち、奴隷なの」  そう言って、レイは自分の顔に走った傷跡に触れた。
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