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──それで、それでどうなるんだい。
布団が布団女にまた、話しかけてきた。布団女はいつものように中途覚醒してしまったらしい。
せっかくの妄想が泡となって消える。
布団女は急いで、夢の一欠片を頭の中で集めると、ぎゅと目をつぶり、妄想の続きを描いた。
水墨画のように頭の中にシーンが写しだされる。石鹸のように柔らかでツルッとした、枯葉男の顔に長髪が付け加えられた。
妄想というものは不思議なもので情報が多いほど明確になる。
「まずは……部屋に入って……」
布団女は枯葉男に向き合うと髪を一束取り、触ってみた。
そして彼の瞳を覗き込んだ。
瞳の色は何色だろう、自分と同じ濃いめのキャラメル色だと嬉しいなどと思いながら。
ぽっかり空いた穴を覗き込んで見る。
どういう反応を枯葉男がするかはわからない。目尻にシワが寄っていたらいいな、などと勝手に布団女は思った。
その次に布団女は枯葉男に傅き、紳士のように手の甲にキスをした。
そして、また、瞳を覗き込んだ。
こうやって、確認しながら彼に触れてみたかった。言葉は要らない、彼の声を想像してみた。低い声か高い声か、中性的な声なのか……。
言葉は魔法だ、いい意味でも、悪い意味でも、
現実の世界での彼に好きだの、愛してるだのそんな薄っぺらい言葉は通じないだろうと布団女は思った。
ただ触れて、確認したかったのだ。
現実の彼はどんな目で自分を見ているのか!
嘲笑、哀れみ、同情、友愛、瞳の奥底を覗き込んで彼に自分がどう見えているのか……。
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