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恋愛する気はない。
だけど、忘れたくても忘れられない日々におかしなことを考えるくらいつらいのも事実であり、ひとりであると思い出すことも多い。
友人と過ごすだけでは埋まらず、とにかく、今がしんどくてしんどくて、どうにかしたかった。
それを考えると、レオナルドが提示してくれた条件は気負わずにいられるし、ジュリアにとってもちょうどいいと思えた。
そしてレオナルドの方は、縁談やら女性関係に辟易しており結婚をしたい事情がある。
そのため、平民であり国家資格、つまり国に認められた魔力のある薬師のジュリアがちょうどいいらしい。
この国の国家資格を持っている者は、ある意味、田舎の貧乏貴族よりもしっかりとした本人の身分が証立てられて優遇されることもあるほど、貴重とされている。
家を継がない次男、三男あたりは騎士になり己で生計を立てようとする者も多いが、他家貴族の婿となる者も多い。
レオナルドの方は引く手あまたであり、選択肢はいくらでもありそうだが。
「レオナルド様は私でいいのでしょうか?」
「言ったでしょう? ジュリアがちょうどいいのです」
再度、そう言われ安心する。
好きだからと言われるよりも、ちょうどいい。それが今のジュリアにはすっと入ってきた。
互いに、ちょうどいいのなら契約結婚も悪くないかもしれない。そう思える。
目の前には気品を備えた美しい姿顔立ち、色気を漂わせる甘いマスクは威圧感もなく見ていて目の保養。アイリスのいうイケメンである。
どうしてこんな人がとは思うけれど、互いに気持ちを預けるわけでもないし、確かにオリバーを忘れるにはこれくらい衝撃的でないといけないのかもしれない。
そんな相手ににこにこと笑みを浮かべながら、困ってるので引き受けてほしいとばかりに期待のこもった眼差しを向けられると、心が動く。
オリバーからお前は可愛げがない、ひとりでやっていけるだろと言われ傷ついたものが、そんな自分でもたとえちょうどいいだとしても必要だと言ってくれる相手がいるだけで、救われるような気がした。
「前向きに検討します」
ジュリアの言葉を受けたレオナルドは、ふっ、と微笑み、覗き込むように身体を傾けると、するりとジュリアの金の髪を撫で、そっと頬に触れた。
そのまま鼻と鼻が触れ合いそうなくらい近い位置で、艶やかな黒い瞳でジュリアを捉える。
「ええ。ぜひそうしてください。後悔はさせませんよ。必ず、あいつを忘れさせます」
頼もしい言葉とともに、やけに視線を熱く感じたのは気のせいだったに違いない。
ちょうどいい、というわりに力強い言葉に、いつの間にかジュリアは頷いていた。
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