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白騎士と仲良くしてはいるが、心のどこかで劣等感を抱く。
時間とともに、憧れや妬みなどそういったものに折り合いをつけて自分の仕事に誇りを持ってやっていくものだが、俺は俺だと言いながらオリバーはいつもどこか身分も高い白騎士の友人を羨ましそうに見ていた。
そして、薬師という国家資格を持つジュリアはそんな黒騎士より給料が良い。
なので、オリバーが気持ちがささくれた時には「ジュリアは危険な目に遭わないのに楽をして金を稼げるっていいよなぁ」とこぼす。
そのあとすぐにハッとしたように謝り、甲斐甲斐しく世話を焼き愛をささやいてきた。
必死に掴み取ったものを、そんな言葉で片付けられることに、その経過を共に過ごし知っている相手のその言葉に、ジュリアも思うことは多々あった。
だけど、男の矜持だってあるだろうといつも一歩後ろに引いてオリバーを立ててきた。
人は誰しも一面だけではないし、心がささくれることだってある。
その言葉に傷つきはするが、それ以上に頼もしく優しい恋人だった。だと思っていた。
良いところも悪いところも互いに知った上で、愛し合ってきたと思っていた。
結局はそういった本質は変わらず、本人に改める気もなかったということなのだろう。
腹が立つというよりは、すっごく虚しい。
「何を言えというの?」
「ジュリアは俺がいなくてもいいよな。国家薬師だしな。サラは俺がいないとダメだって甘えてくるのに、お前は甘えてこなくて可愛げがない」
「…………そう」
「薄情なやつだな」
それはあなたではないのだろうか。
浮気しておいて?
お相手を妊娠させておいて?
私と結婚することを匂わせといて。
こんな人だったのだろうか。
こんな人を愛していたのか。
体格もよく顔立ちもそれなりに整っている黒騎士であるオリバーがモテることは知っていたが、愛してくれていると思っていた。
私だけ、そういつもあなたが言っていた言葉を鵜呑みにしていた私が悪いのだろう。
もう考えるだけで疲れ、虚しさがこみ上げてくる。
顔を見ていたくない。
ひとりにさせて。ひとりになりたい。
「話が終わったのなら出て行って」
声が震えそうになるのを必至で堪えながら、ジュリアは告げた。感情という感情がそぎ落とされ、自分でも冷たい声が出たと思う。
でも、どう思われてもいい。ジュリアよりも大事な存在ができたというのなら、そのお相手のところにでも好きに行ったらいいのだ。
「お前って、そういうやつだよな」
結局、自分の行いの謝罪の言葉もないまま、言われたところで許せるものでもないが、恋人であった相手は捨て台詞を吐いて出て行った。
バタンッ、と苛立ちを表すように強く扉が閉められる。
「ははっ」
恋人だった人のあらゆる行動が情けない。
涙も出ないほど虚しさに襲われ、ジュリアはふらふらとソファに崩れ落ちた。
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