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2忘れたい
仲睦まじかった自分たちの破局は、オリバーの浮気であっけなく終わった。
真面目でいつも優しかった相手。
仕事上、休みが合わないことも多かったが、うまくやっていると思っていたのは自分だけだったらしい。
いったいいつから?
そういうことを考え出したらきりがなく、ジュリアはありとあらゆるオリバーの思い出が残るものを捨てた。
「いっそのこと、この場所も引っ越そうかな」
見渡せば、あちこちでオリバーの気配を感じる。
朝食を食べたテーブルや一緒に植えた花壇。あそこであれをした、これをしたと、次々浮かんでは消えていく。
ジュリアの給料なら、もう少し勤務先に近い場所で良い物件に住める。
働き出した当初はお金もなく、ある程度貯まってきてもそのままここに住み続けたのは、彼と苦楽をともにしてきた場所でもあったからだ。
ランチをしながら、そのことを友人のアイリスに話すと、彼女はバンッと机を叩き感情をあらわにして後押ししてくれた。
「そうすべきよ! そもそも、ジュリアが遠慮しすぎだったのよ。だから、あいつも付け上がったのね」
「遠慮していたつもりはないけど……」
オリバーがジュリアの稼ぎのことを気にしていたので、それが頭になかったとは言い切れないけれど。
だからと言って、浮気とそれは関係ないだろう。
「本当、優しいんだから。幼い頃からずっと一緒にいたから情も移ってるんだろうけどさ。ジュリアの気遣いを無下にするなんて。最悪」
「まあ、相手を妊娠させたとかはさすがにどうかと思う」
「そうそう。最低だよ。ジュリアはもっと怒っていいからね。謝罪もないなんて、ほんと最低っ! ここで別れて良かったんだよ。普段真面目なやつほど、羽目を外すとロクでもないよね」
「ははっ」
乾いた笑いが漏れる。
ジュリアの代わりに怒ってくれるアイリスに救われると同時に、そんな相手と長い間付き合ってきたと思うと虚しくて仕方がない。
やはり、怒りというよりは落胆の方が勝る。
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