2忘れたい

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 結婚すること、家庭を持つことに憧れていた。付き合ってきた年月と、年齢的にもそうしたいと思っていたけれど、一気に気持ちが冷めてしまった。  幸い、自分には仕事がある。  ひとりでも過ごしていける。  そうジュリアは自分自身に言い聞かせアイリスと別れたあと、勢いは大事だろうと賃貸物件を扱っているお店に向かうことにした。  外は青空が広がりあまりにも穏やかな日差しが目にしみて、ふとした瞬間にオリバーのことが浮かぶ。 「はぁっ……」  さっさと忘れたいと、忘れるんだとぶんぶんと首を振って思考を振り払い、歩き出す。  物心ついた頃から一緒にいたため、十五歳からの六年間の出来事とともになかなか簡単に消えてくれなかった。 「もっと環境を変えてみるのも手なのかな?」  引っ越すのは前提として、この街を離れてみるとか?  職場は変わらないので、住んでいる環境をがらっと変えるのはいいかもしれない。  そこまでしないとオリバーのことを忘れられないというのも悔しいが、ここにいては何かと生活圏もかぶるし見かけることもあるだろう。  視界に入ると、忘れようとしても思い出されることが多くて、なかなか気持ちを昇華させるのが難しそうだ。 「だから、みんな新しい恋人ってなるのかな」  ジュリアはうーんとアイリスの言葉を思い出し、はぁっと溜め息をついた。  確かに、新しい出会いは忘れるにはいい方法なのだろうけれど、それでもやっぱり人に気持ちを預ける気にはなれない。 「いっそのこと、契約結婚とか?」  結婚となると生活がガラリと変わる。そのうえ契約なら心まで預けなくて済む。  数日前に読んだ貴族のゴシップ記事を思い出し口に出してみたが、あまりにもバカらしすぎて却下だ。  契約とは互いに益があるからこそ成り立つのであって、貴族でもなんでもないジュリアと契約を交わして得をする人物なんて現実にはいない。  そもそも、生活は変わるがよく知らない人と一緒に生活なんて意味がわからない。  あまりにもバカらしい思考に、ふっ、と苦笑を浮かべたところで、唐突にぱしっと腕を背後から取られた。  そのままぐいっと引っ張られて立ち止まり、こちらを見下ろす人物にジュリアは目を見張る。
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