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「レオナルド様?」
「いえ。なんでもありません」
ふっ、と笑むと口角が上がり、唇の右下にあるほくろの存在感が増してさらに色っぽく感じる。
レオナルドが姿勢を正すと、その際に彼に遮られていた陽光がジュリアの金の髪とともにきらきら輝く。
それらを眩しそうに目を細め見たレオナルドが、そっと前方に視線をやり考えるように目を伏せ、じっと探るようにジュリアを見てきた。
「それでこれからどこに行かれるのですか?」
「そこのお店でいい物件を紹介してもらおうかと」
店に視線を向けると、レオナルドも確認するようにちらりと見たがすぐにジュリアに視線を戻す。
「住居を移されるのですか?」
「はい。この際、職場に近い場所に引っ越してしまおうかと思いまして」
「それはいい考えです。ですが、この辺よりはかなり相場は高くなると思いますが」
「今まで貯めてきたものもありますし、どうしても、ここにいると……、まあ、そういうことです」
言葉を濁すと、レオナルドが痛ましそうな顔をした。
「忘れられないということですか」
「……まあ、長かったですから。次の恋という気分にもなれませんし」
「…………、ほんとあいつぶっ飛ばす」
なにやらレオナルドが小さな声でぼそぼそと言ったが、その言葉は聞きとれずじっと見上げると、なんでもありませんととても爽やかにまた微笑まれた。
見下ろされる形になるからか、伏し目がちの視線は妙に意味深に見えて仕方がない。
レオナルドは一度唇を噛むと迷うように視線を左右に動かし、その迷いを振り払うようにジュリアの右手を掴んできた。
オリバーではない、男の大きな手が自分の手を包み込む。
「私、ではダメでしょうか?」
「……えっ?」
「彼を忘れるために、私とともに過ごしませんか?」
唐突な申し出に、ジュリアはぱちぱちと瞬きを繰り返した。
何か言葉を吐き出そうとしたけれど、やっぱり意味がわからないと困惑をあらわに白騎士様を見つめる。
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