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4ちょどいい
掴まれている手の大きさや硬さが慣れなくてちょっと落ち着かないなか、ジュリアはなんとか思考を働かせて言葉を絞り出した。
「えっと、理解がおいつかないというか。その、先ほども言いましたが恋愛だとか今は全く考えられませんし、ただ状況を変えたいというだけですし。そもそも、レオナルド様はおモテになられているので、女性に困っておられないでしょう?」
「今はお付き合いしている女性はいません。それに、周囲に結婚を急かされてまして見合いの話が大変なんです」
何かを思い出すようにふっと物憂げに溜め息をつくレオナルドに、ジュリアは実際にそんなことがあるのだなとぽつりと聞き返した。
「お見合いですか?」
「ええ。ここだけの話、騎士団に入っても兄は後継のことが気が気でないようで。無用な争いを避け家族を安心させるためにも、平民でありながら国家資格をお持ちのあなたとならちょうどいいんです」
「ちょうどいい、ですか……」
女性を取っ替え引っ替えしている、簡単に言えば遊び人であるレオナルドの言葉に密かに驚く。
お貴族様はお貴族様でいろいろあるのだろう。
「はい。そうです。正直なところ、女性に声をかけていただくのはありがたいのですが、その大半は断らないといけませんし、明らかに地位目当てであったり、この容姿だからというのも、ね。疲れるんです」
「はあ、大変なんですね」
「ええ、その上ここ最近は見合い攻撃で正直参っておりまして」
「なるほど」
ここまで彼と込み入った話をしたこともなく、憂いを帯びた溜め息とともに話され、ジュリアはいつの間にか相槌を打っていた。
「なので、結婚していただけませんか?」
「結婚? 急に話が飛んで意味がわからないのですが」
「ジュリアも環境を変えたいのでしょう? それに恋愛もしたくないと。私と一緒ならいい物件にも住めますし、男がいると防犯の面でも安心ですし変な男も寄ってきませんよ?」
「だからと言って、結婚というのは」
あまりにも極論すぎる。
意味がわからないと眉を寄せると、レオナルドは困ったように眉を下げ、懇願するように声を低くした。
「ダメですか? 先ほど、ジュリアの口から契約結婚という言葉も聞こえた気がしたのですが。この場所でこのタイミングで出会ったのも運命だと私は思います。私の見目や身分に目をくらませないジュリアとなら良い関係を築いていけると思うのですが」
切々と訴えられ、きゅっと手に力が込められる。
「つまり、レオナルド様は契約結婚をしたいということですか?」
「契約……、そう思っていただいても構わないですよ」
「そうですか」
先ほど冗談で思い浮かべたことが現実に起きた。
相手には私がいい理由があると。なら、私は? 彼が、レオナルドがいい理由があるだろうか?
「ダメ、でしょうか?」
「ダメ、というか……」
ジュリアが眉を寄せ考えるように視線を下げた。しばらくそうしていたが、視線を感じてもう一度彼を見上げると、思った以上にこちらの機微を探るような真剣な瞳とぶつかる。
重なり合ったその黒の瞳がわずかに揺らいで細まるのを間近に見てしまい、さらっとした口調に反したその双眸の強さにどきりとし、思わずそっと視線を逸らした。
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