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「おかげさまで。向こうには南みたいな美人はいなかったから寂しかったけど」
渉がニッと笑うと、南は「調子いいこと言って」と強い口調で言い、背中を向けた。
渉は大西を見上げて言った。
「なんか機嫌悪いな」
「おまえがいなかったからだろう。手紙のひとつくらい書いてやれば良かったのに」
「そんなんじゃないって。俺ってあいつの好みのタイプじゃねーもん。ええと、そうそう」
渉は悠希の方を見た。
「悠希みたいな感じがタイプじゃないか。無口で涼し気な雰囲気の人が好みだって言ってたぞ」
「あー、確かに、渉はうるさくてちょっと暑苦しいよな」
そう言って頷く大西の腹に渉が軽く拳を入れる。大西が冗談っぽく「う」と呻いたとき、教室に担任教師の高橋が入ってきた。皆が自分の席に戻り始める。
髪をオールバックにした高橋は四十代の国語教師で、一見気難しそうに見えるが実はそうでもない。渉の姿に気付いて「お」と声をあげた。
「なんだ、長谷川、いたのか」
「先生、それはないって」
教室にドッと笑い声があがる。
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