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「ああ、ごめん。驚かしちゃったか」
男は笑った。
まるで大輪のヒマワリのような、屈託のない笑顔だ。
額にかかる髪は風になびいて揺れている。目鼻立ちははっきりとしているが、気取った感じのない親しみやすい雰囲気だ。
見覚えはない。
「へえ、なるほど、川の色に緑も使うんだ」
男はつぶやき、一人で納得したように頷いている。
初対面のはずだが制服は同じ、白いシャツに黒のズボン。胸元のピンバッチから、学年も同じだとわかった。
悠希が通う普通高校は一学年に二クラスしかない。この町で生まれ育った人たちは殆どが顔馴染みのようだったが、二ヶ月前に引越してきた悠希は、話したことのない人間の方が多い。それでも、同学年なら見覚えくらいはありそうなものだ。
恐る恐る聞いてみた。
「……どこかで会ったことある?」
「いいや」
男はあっさりと答え、やはり明るい笑みを浮かべた。そしておもむろに胸ポケットから長方形の何かを取り出し、川の方に向けた。
「この角度かな」
手に光る銀色の物体はデジタルカメラだ。
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