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小さなシャッター音が聞こえる。
納得がいかないのか、別のショットを撮りたいのか、緩やかに斜めになっている土手を下りて川へと近付いていく。長身だけど、身のこなしは軽やかだ。
悠希はスケッチの手を止め、楽しそうに撮影を続ける男を半ば茫然と眺めていた。
何なのだろう。
確かにどこの学校でも、人みしりせずに話しかけてくる人間はいたが、それは同じクラスだからであって、通りすがりに知らない人間に話しかけるなんて稀だろう。
人と喋るのが得意ではない悠希にとって、この気安さはまるで未知の生物みたいに見える。
男は急にこちらを振り向いた。
慌てて目を逸らそうと思ったが、目が合ってしまう。
「撮っていい?」
カメラを軽く掲げ、こちらを見上げて笑った。
「……あ、俺?」
悠希はゆっくりと瞬きをした。
微かにシャッター音がした。
「――なっ」
まだ返事もしてないのに。
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