2

7/10
前へ
/43ページ
次へ
「昨日、渉の家に寄ってみたんだけど、お父さんとか親戚も来てて大変そうだったから、ちょっと話しただけで帰ってきた」  大西は悠希の前の机に腰かけて言った。その横に立っていた植田が尋ねる。 「おばあちゃん、どうだって?」 「まだ意識が戻らないんだって。戻っても以前みたいに畑仕事なんかするのは無理だろうって」 「お父さん、帰ってきたのか?」 「仕事抜けてきたとかで、すぐ戻るって話」  悠希は黙って二人の会話を聞いていた。  あの家に一人でいるのだろうか。  先生が教室に入ってきて講習が始まった。渉がいない教室は静かで物足りない。彼が現れるまではこれが日常だったのに。  こんなときにうかがうのは迷惑だろうか。  でも——。  家に行ってみよう。忙しそうなら去ればいい。      ※  自転車をいつもより飛ばして渉の家へと向かった。色鮮やかな風景も、今日は心を明るくはさせない。  渉の家に呼び鈴はなかった。  ガタガタと音をたてる引き戸を開けて呼ぶ。 「渉」  返事は返ってこない。縁側にいれば声が届かないかもしれない。  家の外をぐるりと回って縁側の方へと向かった。 「――渉」  渉は縁側に座ってぼんやりと畑の方を眺めていた。反応は少し遅れたが、いつもの笑みを浮かべてこちらを見た。 「来てくれたんだ」 「……うん、忙しいかと思って顔出さなかったんだけど」  心配だったから。 「昨日まではバタバタしてたけどね。父さん仕事に戻ったし」 「おばあさん、意識が戻ったのか」 「いや」  首を横に振る。 「叔母さんが隣町にいるんだ。父さんの妹。だから病院には叔母さん夫婦が行ってくれてる。意識がないから俺がいても手伝えることはあまりないし、毎日様子見て帰ってくるだけ」 「そうか……」 「ここ、座れよ」  渉が隣を指差した。言われた通りに腰を下ろし、同じように遠くを眺める。 「ここの土地、売ってしまうかもしれないって」  ぽつりとつぶやく。 「え」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加