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「……あんな形で別れたから、もう渉はとっくに俺のことなど過去にしてるだろうと思ってた。でも、俺は忘れられなかった。何を見ても、渉のことが浮かんで」
別れ際に渡された沢山の写真が脳裏に次々と浮かぶ。
青空、輝く水面、真っ赤なスイカと真っ白なカルピス、線香花火と夜の海。
データが消えたとしても、いつまでも胸に残る二人の瞬間。
「好きなんだ。渉が好きだ。渉と一緒の未来が欲しい」
心臓が激しく鼓動を打つ。
ずっと言えなかった言葉。
大きく息を吐き、俯いた。
やっと言えた。
手が小さく震えていた。頭の中が真っ白で何も考えられなかった。
言葉が返ってこない。
不審に思って顔をあげると、渉は泣いているのか笑っているのかわからないような表情を浮かべて悠希を見ていた。
「……渉?」
「……駄目かと思ってた。二度目の玉砕覚悟で来たんだけど、夢見てんのかな」
「大事なものを守るためには本気になれって、思ったことは言わないとって、俺に教えたのは渉だろ」
強く抱き締められた。
互いの鼓動が聞こえそうだ。
「抱き締めていい?」
「……もう抱き締めてるだろ」
「そうだった」
腕が少し緩められる。渉の顔がすぐ目の前にある。
「キスしていい?」
「え、ここで」
「そう、ここで」
見慣れた屈託のない笑み。
拒絶などできるわけがない。
出会った瞬間から、惹かれていたのだ、きっと。
夕暮れの公園は人の姿もまばらだ。
小さく頷く。
渉らしからぬ遠慮がちな仕草で顔を近づけてきて、唇を重ねた。
心臓が壊れそうなくらい鼓動は早いままだけれど、冷たくなっていた指先も、心の奥深くまで温かくなっていく。
唇が離れる。
顔は間近なままで、渉が言った。
「俺も好き、ずっと。再会するときも絶対好きだって自信あった。間違いなかっただろ」
自信ありげに目を細めて笑う。
その表情を、笑顔で見上げる。
あの夏で止まっていた時が動きだす。
大事なものは、ここにある。
新しい瞬間を作っていきたい。
二人一緒の。
青空の下、緑の中を、どこまでも続く道を、自転車で走り抜けたように進んでいく。
並んで、果てない未来へ。
< 終 >
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