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スケッチを続けるのを諦めた悠希は、自転車で学校へと向かった。
教室に入って小声で「おはよう」と言う。誰に向かって言うわけでもないが、転入生以外は子供のころからの顔なじみばかりだからか明るい雰囲気で、「おはよう」と言えば近くにいる誰かから「おはよう」と返ってきた。
何度か転校を繰り返して覚えたことは、とにかく無難に、好かれなくてもいいから嫌われないこと。東京の大学に進学するつもりだから、この町とも来年の春にはお別れだ。受験のことを考えれば、あと数カ月しか一緒にいないのだから、必要以上に親しくしても面倒なだけだ。
悠希は窓際から二列めの一番後ろの席に鞄を置き、着席した。スケッチを早く終えたので今日は時間が余っている。鞄から文庫本を取り出して開いた。
活字を目で追ったものの、なかなか頭に入ってこない。
さっき会った男が同学年の生徒であることは間違いはない。
転校生だろうか。
それが一番納得がいく。
慣れない町で見つけた同じ年頃の生徒に思わず声をかけてしまった。そんなところだろうか。もっとも、思わず声をかけてしまうということ事体が、自分には考えられないことだが。
――なんでこんなに気になるんだ。
ふと我に返る。
読書に集中しよう。
そう思ったとき、後ろの扉の方から歓声が聞こえた。教室中の人間がそちらを向き、中には駆け寄る男子生徒もいる。
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