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「なんだよ、久しぶりだな」 「もう戻ってこないかと思ってたぞ」  笑い声。  輪の中心にいる生徒が、人垣を掻き分けるようにして教室に入ってきた。  手荒く背中を叩く人間に鞄で応戦している顔を見たとき、悠希は小声で「あ」とつぶやいた。  あいつだ。  河原で声をかけてきた男。 「席替えした?」  男は大西(おおにし)(しげる)に尋ねた。大西はクラスで一番背が高く、最近までバレーボール部で活躍していた。短い髪やしっかりとした体つきがいかにもスポーツマンらしい。隣にいる男も、それほど差がないくらい背は高いが。  大西は意地悪そうな笑みを浮かべた。 「(わたる)の席なんて、ねーよ」 「うっせーな」  じゃれ合うようなやりとり。  悠希は着席したまま様子を眺めていたが、渉と呼ばれた男は急にこちらを向いた。  視線が合う。
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