落とした翼

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 バレエとの出会いは、母親に連れられて見にいったお友達のバレエの発表会。踊りの良さなんて少しも分からなかったけれど、キラキラした衣装がお姫様のように見えてわたしは食い入るように舞台を見つめていた。あんなふうに、わたしもなれたら。そう考えると足元がソワソワして、何故だかわたしまで踊りたくなってしまう。踊ることなんて、興味がなかったはずなのに、勝手に足がユラユラと動いていた。そんなわたしを見ていた母親が習わせてくれることになったバレエ。わたしもあんなふうになれるんだ、って、嬉しくて嬉しくて。あの日見た踊りを思い出しながら見よう見まねのステップを片っ端から真似してた。  そしていよいよ、レッスンの初日。そして、さっきまで振り返っていたあのシーン。何度思い返してもため息が出る。  あの日、わたしは酷く落ち込んだ。あんな悪口言わなくてもいいのにって、幼いながらに思ったりもした。周りの大人たちが笑うことでその子どもたちも笑い出し、遠慮がちに場の空気を伺う母親はただ下を向いて黙っていた。後で「あんなに笑うことないのにね」とは言ってくれたけど、わたしはあの時に言ってほしかった。  顔が熱くなって、喉の奥がピタンと塞がれ、お腹の奥がチクチク痛んだ。まだ始まってもいないレッスンを抜け出してどこか遠くへ走っていってしまいたかった。買ってもらった水色のフリルが付いたレオタードも、ぽっこりと出ているお腹も、むちむちの腕も、まっさらなサテンのバレエシューズも、何もかもが恥ずかしかった。誰よりも上手くなるんだ!って意気込んでいたわたしは先生から一番見えない場所のバーについてレッスンを受けた。本当は、一番前でやりたかったけど、そんなこと、あんなに笑われてしまっては、できやしなかった。
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