落とした翼

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 その後もう一度別の教室に入り直し、バレエを続けたけれど結局有名なバレリーナになることはなかった。何回か受賞したコンクールの賞も、輝きだけが残って、わたしの翼には、なってはくれなかった。  けど。 「せんせえー!みてー!あたし、ばれりーななの!」 「うん。すごいね。くるくる〜って、できるかな?」 「できるよ〜みてー!」  わたしは絶対に笑わない。この子たちのどんな夢も、どんな言葉も馬鹿にしない。体型だって、絶対に。可能性があるならどんなことにもチャレンジさせてあげたい。  だってわたしは。  今日からバレエの先生なんだから。  それぞれが好きに選んだレオタードを身にまとい、くるくると自由に回る幼いこの子たちを見て少しだけ軽くなる背中には、ふしぎと翼がついているような気がした。あの頃の、幼いわたしが落としてしまった小さな小さな翼が今、わたしを動かしてくれている、そう思った。  あの日以来恥ずかしくて着れなくなっていた大好きな水色のレオタードを身にまとって、背すじをしゃんと伸ばす自分の立ち姿は、お姫様ではないけれど、それでもスっと真っ直ぐなひとつのラインが作られていて誇らしい。すてきだよ、と鏡の自分に語りかけてから教室の中を見渡す。  レッスン前の教室にこだましているのはみんなのとっても元気な声。あの時埋め尽くされた笑い声とは違った、明るく誰も傷つけないやさしいやさしい笑い声。あの頃の苦い思い出が、うすくゆっくりとやわらいでいく。   「はーい、ちいさなバレリーナさんたち、レッスンはじめますよ〜」 「はーい!」  揃った声に、元気なお返事。  さてさて、レッスンをはじめましょう。  あの頃のわたしも。どこかで踊っているのかな。  そしたら、そうしたら、今度はバーの端っこなんかじゃなくて真ん中においでね。誰ももう、笑ったりなんてしないから。  
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