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「旅行、どうだった?」  アオイ総合病院の院長室に入った瞬間、挨拶もそこそこに尋ねられた。ペアチケットまでもらっておいて、うまくいかなかった、なんて言えない。めいっぱい虚勢を張って、碧唯兄ちゃんに笑顔を向けた。 「とってもすてきな旅館でさ、晴美さんとの仲もすごく深まったし、もう心配ないよ。ほんとありがとう」 「そうか。よかったな」  内線電話が鳴った。受話器を取った碧唯兄ちゃんは、「分かった、すぐ行く」とだけ言って立ち上がる。すれ違いざま、ぽんと優しく頭をたたかれた。ひとり残された僕の視界に、絨毯が映る。ぴりっと痛みが走った。無意識のうちに唇を噛んでいた。 (どうして見破ってくれないの)
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