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「起きろ、唯織!」
はっと目を開けると、心配そうな顔の兄がいた。シンプルな服をかっこよく着こなした現実の兄と、さっきまでの猥雑な夢とのギャップに、脳がついていかない。
「あおい、にい、ちゃん?」
「部活の朝練あるんだろ。そろそろ起きないと遅れるぞ。ほら、唯織」
僕がよろよろと身体を起こしたのを確認して、大学院生の碧唯兄ちゃんは、あわただしく部屋を出ていった。カーテンに透けるやわらかな陽光、自転車が鳴らすベルの音、トーストが焼ける香り。いつもどおりの朝が健全すぎて、恥ずかしさに頭をかかえた。
「また、あの夢……」
なんであんな夢、見ちゃったんだろう。自分がひどく淫乱な生きものに思えて、いたたまれなくなってしまう。
夢とは、無意識の本音を映したものだという。だとしたら、この夢があらわす願望とは……。そのあとに続く言葉のおぞましさに戦慄した。
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