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「晴美さん!?」  ひったくるようにして受話器を耳にあてると、「唯織さん」と涙ぐんだ声がした。 「ようやく声が聞けて嬉しいわ。いつ病院に来ても、ずっと面会謝絶だったから、心配で心配で……」 「……!?」  おぼろげながら、自分の状況をようやく把握した。碧唯兄ちゃんが面会を断ち、ここに誰も入ってこないようにしていたんだ。僕の「治療」のために。  窓辺に花瓶があって、きれいな花が生けてある。よく見ると、晴美さんのセンスが感じられるアレンジだ。晴美さんの思いの詰まったフラワーアレンジメントの前で、僕は、ただれた欲望に喘いでいたんだ。自分の業の深さに、くらくらとめまいがした。
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