38人が本棚に入れています
本棚に追加
「忘れよう、今すぐに」
夢の一切合切を、記憶から消してしまおう。でないと、父さんや母さんに「おはよう」を言うことも、碧唯兄ちゃんに「いってらっしゃい」を言うこともできやしない。いつもの朝を迎えるためにも、忘れてしまわなければ。
……まだ高校生だった僕には、自分の本性を直視する勇気がなかった。だから、その夢を冷凍し、無意識の底に沈めることにした。意識化しなければ、そのうち消滅するはずだ。事実、就職してひとり暮らしをはじめてからは、そんな夢のことなどすっかり忘れていた。
――それから10年の年月が過ぎ。
淫夢の続きが、僕に迫ってくるまでは。
最初のコメントを投稿しよう!