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 凄惨(せいさん)な現場だった。  信号無視したトラックが、自動車を横転させていた。道路にはガラスがちらばり、無残なタイヤ痕が描かれている。大破した自動車のエアバックをかきわけ、運転席にいた女性を救出していると、同僚の叫ぶ声が聞こえた。 「おい、子どもがいるぞ!」  地面に投げ出されたチャイルドシートに、3才くらいの幼児が乗っていた。口から血を吐いて苦しがっている。 「この出血、内臓破損してるかも。すぐに手術してもらわないと!」 「はやく乗せろ。搬送するぞ!」  重傷者を乗せた救急車は、けたたましいサイレンとともに走り出す。応急処置を施しながら、バイタルをチェックする。危険値だ、患者は死の淵にいる。一刻の猶予もない。  無線を操作していた同僚が、「くそっ」と呻いてヘッドホンをたたきつけた。 「A病院、B病院、C病院に断られた。『空いてる病床がない』なんて言われたが……はっ、嘘つきが! どうせ、どの病院も、幼児の外科手術なんてしたくないんだろ。成功率が格段に低く、訴訟リスクがべらぼうに高いからな!」
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