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女性が店を出て行ったのを確認してから待ちかねたように、いそいそと厨房から竹下が出てくる。
「あの人、結局晶ちゃんの事信じてなかったんだ~ 何かスッキリしなーい」
お冠のようである。
「まあ、あんなもんでしょ」
「ええ~、何か腹立つわー!」
「あはは、怒ってくれてありがとう」
マスターがガラスのコーヒーサーバーを持ってきて、空になった晶のカップにコーヒーを注ぐ。
「これは、僕からお疲れ様の気持ちね」
「ありがとうございます」
「アタシもこれ!」
エプロンのポケットからチョコレートを引っ張り出して、晶の前に置いた。
「わーお。チョコレートだーやった!」
マスターが首を傾げるながら
「何で、お金もらわなかったの?」
「そうだわよ。貰っとけばいいのに」
「え、だってさ、前払いでもらってたしさ。あと・・・」
「「?」」
「もうね、あの人とこれ以上かかわり合いたくないんだよねえ」
思わずため息をつく晶。
「「わかる!」」
ハモるマスターと、竹下。
『だと良いがな・・・』
『・・・ライコウ。フラグ立てないの!』
あと10年位経たないと残り2つの『お願い』は多分叶わない。最も今は、娘の事で舞い上がってるので、願った事すら忘れている。
その時にどういう状況で願いが叶うかは、今回ほど明確に晶にはわからないし分かりたくもない。
大体において細かいことを此方からお願いしたとしても、受け入れられないことが多い。
言うならば、行程が幸せか不幸かは、その人の感性の問題であって、神様には関係がないのだ。
神様は細かい行程は全く気にせずに、結果だけをくれる。
全ては『神のみぞ知る』である。
でも晶は一つだけ知っている事がある。
神様はヒトの本心からくる裏心のない願いは絶対に裏切らない。
神様の仕組みはそういうもんなのである。
『オレのお願いはライコウと一緒に幸せになることだよ』
『知ってる』
ふわん、と暖かい手が晶の頬を包み込む気配がする。それを嬉しく感じながら、窓の外で降り始めた雪を見ながら、チョコレートを口にする晶だった。
「願いを口にするヒト」了
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