閑話『戸田伸二』

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 「手入れが超簡単な色だし、距離も大して走ってない。車検は1年残ってるからお買い得だと思うよ」  「・・・」  ちょっと首を傾げてから、  「うん。あれにしようか」  ん? なんか、変な間があったぞ?  「お兄さん、じゃあ、これ手付けね。あれ仕上げていくらになるか計算して総額を電話で教えてくれる?  あと、金額をオーバーするようなら、引き渡しの時に構えとくから」  と、ウェストバックから白い封筒を引っ張り出して渡してきた。  「え、いや、まって、買うの?!」  「え、買うけど。売りたくないの?」  「いや、売りたいですけど、他は見なくてイイの?」  「うん。あれが相性良さそうだしね」  「? 」  「イイ子だよきっと」  「?  は?」  「じゃあ、仕上がりは4日位でいける?」  「あ、はい。大丈夫です」  「んじゃ、これ名刺ね。それに40万入ってるから、預かり切ってくれるかな、あと10分でここ出ないと仕事だから」  「え、ちょ」  いやいやいやいや、待って、この子一体何なの?! 即決即金なの?!  俺は慌てショールームの事務員に封筒を渡して金額を確かめてもらい、その間に書類を構える。  本人にサイン貰わないとダメなんだってば~!  何なのこの子。胆力ありすぎっ!  「戸田伸二さん、ね。オッケー。これから宜しく。じゃあ、電話はいつでもイイよ。自営業だし」  ニコッ。あれ? 以外と可愛い? ドキッとした。いや、俺のタイプじゃない筈だ。うん。俺は実は年上がタイプだからなっ。  最後に彼女は、ひらっとバイクに跨がり、此方にサムズアップして、去っていった。うわあ、1100ccかよ。車より排気量あるじゃんか~!  その後、書類の生年月日を確認して驚いた。6才も年上かよー!  詐欺かよっ!・・・ ちょと気になるなあ。いや、きっと気のせいだ。うん。でも、年上で可愛かったよなあ~・・・ いやいやいやいや、なに考えてる俺! お客さんだぞ! プロポーション良かったよなあ・・・ いやいやいやいや・・・ 俺は何を・・・  「ねえ、竹下さん晶ってさ、彼氏いるのかな~」  「なあに、伸二くん晶ちゃんに、ひょっとして!?」  「いやいやいやいや、会社の先輩が晶がタイプらしくって・・・」  「なーんだー。つまんない」  マスターがひょこっとカウンターから顔を覗かせて、  「離婚歴はあるらしいけど、今は彼氏も居ないらしいよ~ でもね」  「でもね?」  「晶ちゃん、神様が彼氏らしいよ」  「えっ!? なにそれ」  「あ~わかるう! めっちゃ神様に愛されてそうだもんね~」  「は?」  「多分神様と相思相愛なのよ~!」  「不毛じゃないですかね?」  「いやあ、どうかな、案外幸せじゃないかなあ。晶ちゃんだからねえ」  「そうよねえ、晶ちゃんだもんねえ~!」  「ええ~! なんすか、それ!」  「彼女自身が神様みたいだもんね」  「あ、それ、彼女を知ってるお客さんもよく言うのよね~『晶さんって、神様みたい』って」  ・・・俺は、神様がライバルなのかもしれない。前途多難だ・・・
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