願いを口にするヒト

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 相変わらずの暗い表情である。  「娘が、毎朝今日はあそこが嫌だの、ここが気に入らないだの、お母さんは気楽でいいわよねだの・・・ 朝から機嫌が悪くて、それを見て主人まで怒りはじめるし・・・・ どんどんひどくなる一方です」  「はあ」  相槌を打つが、実のところ只の愚痴なので気にも留めない晶だ。  「先生、どうしたらいいでしょうか」  「あー、お嬢さんのは只の受験ストレスから来る八つ当たりですからね。終わらないと止まりませんよ」  「八つ当たり・・・」  「はい。受験生はよくやりますねえ」  「私が原因じゃない?」  「当たり前です」  「どうしようもないってことですよね」  「まあ、普通に手の施しようがないですねえ。ホットミルクに蜂蜜入れて飲むとか、そんなこと位ですよね」  カウンターで新聞を読むふりのマスターと、厨房で隠れて聞き耳を立てているであろう竹下の気配がする。  「何とかならないでしょうか?」  「まあ、子供の時から育て直すしかないんじゃないですかね」  「・・・・そこを何とか・・・」  「無理ですよ」  コーヒーを一口飲む。もう冷めてしまって、アイスコーヒーになってしまった。  『頭オカシイのかね』  『甘えたいんだろうな』  『旦那に甘えろって思うんだが』  『無理だろうなあ』  ライコウの笑う気配がする。  『オレに甘えられても困るし』  『お前は何でも許してくれそうって思われてるんだろうなあ~』  『・・・迷惑だ』  女性が俯いていた顔を此方にむける。  「あの、未だに娘はボーダーラインなんです。本当に受かるでしょうか」  「入学はできます」  「入学はできる・・・」  「そうです。いくら何でも娘さんの成績を上げることはできません。ですので入りやすく整えます」  「整える・・・」  晶はちょっと考えるように目を閉じて、各教科の模擬試験の点数の結果を挙げていく。どんどん顔色が悪くなっていく依頼主。  「なんで・・・」  「あなたの娘さんと私が繋がってるからです。ご本人ではなく、後ろの守護してくれてる存在とですがね」  「・・・」  次は、11日後に受けるであろう試験結果の点数を調べる。これは地面近くにいる、祖霊達に探ってきてもらう。  各教科ごとの当日の平均点数を、次々と口頭であげていき、次に依頼主の娘の教科ごとの点数を言う。  「全て平均点以上ですが、それだけです。これといって高得点がない。あえて言うなら国語が高得点です」  「・・・確実に受かるということですよね」  「いえ、残念ながら補欠です。ただ、辞退者が出ますので、繰り上げ入学になります」  「・・・ ですが・・・ 確実に受からないんじゃあ・・・」  スンッとした顔で晶が答える。  「未来は変えられます。国語に力を入れるか、平均点スレスレの理科を叩き込むかです。ただ、今のままでも補欠に入るのは間違いありませんので、ご安心下さい。ストレスをこれ以上与えるのが嫌ならそっとしておく方がよろしいでしょう」  「・・・私はどうすれば良いでしょうか」  「お好きに」  「先生が決めてください」  やっぱりそう来るんだね。  はあ、とため息をつくと晶は冷たく言った。  「お嬢さんの未来はお嬢さんのもの。私が決めるわけではありませんし、私がこれ以上介入して変えることも出来ません」  「ソコを何とか・・・ お代はお支払しますから・・・ 先生お願いしますこのままじゃ・・・」  泣き始める依頼主に向かって  「大丈夫。どちらにせよ絶対入学はできますから」  と、言って細い葉巻(シガリロ)に火を付けた。
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