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結局娘には1度も会うことはなかったな、と考えながら喫茶店のドアを開ける。
『チリリン』
可愛い音がして、中で待っていた依頼主がこっちを向いた。
『結局顔色は良くならないねえ』
『しょうがないな、あれは慢性的なモノだからな』
ライコウの『慢性的』という表現が何かに引っかかった気がしたが、流すことにする。
「先生!」
「こんにちわ」
立ち上がって、お辞儀をする女性に手を上げて挨拶する。
「無事入学できました」
「でしょうね」
「先生に言われた通り補欠でしたが、すぐに繰り上げで入学許可の連絡が来ました。ありがとうございました」
「で、今日は何かご用でしょうか? 」
「いいえ、入学出来たのでお知らせをと思いまして」
「はあ」
其だけの用事なら電話で済ませてほしいのが本音である。
晶は、コーヒーを注文すると、シガリロに火を着ける。
「ま、依頼は此で完了ですので、後はお嬢さんの入学準備に取り掛かってください。どうせ制服の注文はまだなんでしょ? 」
「・・・ はい」
「知ってますから気にしないで良いです」
「先生、あの」
鞄から封筒を出そうとする女性の手を、掴んで止める晶。
「あの、でも」
「お礼は先払いでしたから、気にせずに。気持ちだけで良いですから。そのお金でお嬢さんをどっかに連れていってあげて下さい。ずっと友達と遊んでも無いんだから。随分我慢してたはずだよ」
「・・・ はい」
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